(3)人権を尊重する企業の責任を促すための政府による取組
ア. 国内外のサプライチェーンにおける取組及び「指導原則」に基づく人権デュー・ディリジェンスの促進
(既存の制度・これまでの取組)
責任ある企業行動に対する関心の高まりの中で、日本も参加する「OECD多国籍企業行動指針」では、2011年の改訂に際して、企業の人権尊重責任に関する章を新設している。また、OECDは、デュー・ディリジェンスの実施に関し、鉱物、農業、衣料等の産業分野別にガイダンスも作成している。2018年には、分野を問わずに企業が利用できる実用的なツールとして「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を公表した。日本政府は、企業に対し、同行動指針及びガイダンスの普及活動を行ってきている。
また、ILOにより、人権デュー・ディリジェンスを相互補完する取組として、サプライチェーンを通じたディーセント・ワークの実現に向けた指針である「ILO多国籍企業宣言」を踏まえた企業とステークホルダーとの対話・協働が推進されている中、政府は同宣言の周知を行ってきている。
我が国においては、「スチュワードシップ・コード」や「コーポレートガバナンス・コード」において、ESG要素を含むサステナビリティに関する取組を促す観点から、投資先企業の状況の把握や企業による情報開示について言及されている。さらに、本年3月に再改訂された「スチュワードシップ・コード」においても、機関投資家と企業間の対話において、サステナビリティを考慮することについても盛り込まれている。また、企業による自主的・自発的なESG/非財務情報に関する対話・開示の手引きとして「価値協創ガイダンス」が公表されている。
また、女性活躍推進法に基づき、常時雇用する労働者数が301人以上の事業主は、(1)自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析、(2)状況把握・課題分析を踏まえた数値目標と取組を盛り込んだ行動計画の策定・届出・周知・公表、(3)自社の女性の活躍に関する情報の公表を行うことが義務付けられている。2019年5月の女性活躍推進法の一部改正により、これらの取組が強化された。
環境面では、環境報告ガイドラインの策定を通じて企業の取組を促進してきている。令和2年8月には、環境報告ガイドラインの記載事項である、リスクマネジメントやバリューチェーンマネジメントに関連して環境デュー・ディリジェンスを行う場合の留意点等を含んだ手引書「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門~OECD ガイダンスを参考に~」を発行した。同手引書では、環境問題への対応には人権と不可分なものもあると考えられるとし、責任ある企業行動の一環として、あるいは、人権と不可分なものとして、環境デュー・ディリジェンスが求められる動きがあることを説明している。
普及・支援活動では、企業向けに、(独)日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所や(一財)企業活力研究所といった関係機関による調査研究を実施し、その成果を発表してきている。
海外に展開する日本企業に対しては、企業への海外展開支援の強化のため、在外公館に日本
企業支援窓口(日本企業支援担当官)を設置し、現地で活動する日本企業の支援を実施してきている。
国際機関では、ILOは、「ILOビジネスのためのヘルプデスク」を通じ、企業の労使双方に、国際労働基準により良く整合した事業展開や、良好な労使関係を築くための情報を提供している。
上記取組に加え、採取産業透明性イニシアティブやIUU( 違法・無報告・無規制) 漁業対策等の国際的な取組が行われ、日本も積極的に貢献してきている。
(今後行っていく具体的な措置)
(ア) 業界団体等を通じた、企業に対する行動計画の周知、人権デュー・ディリジェンスに関する啓発
(イ)「OECD多国籍企業行動指針」の周知の継続
(ウ)「ILO宣言」及び「ILO多国籍企業宣言」の周知
(エ) 在外公館や政府関係機関の現地事務所等における海外進出日本企業に対する、行動計画の周知や人権デュー・ディリジェンスに関する啓発
(オ)「価値協創ガイダンス」の普及
(カ)女性活躍推進法の着実な実施
(キ) 環境報告ガイドラインに即した情報開示の促進
(ク) 海外における国際機関の活動への支援